「つくる」と「つかう」をつなぐ人、「つくる」を伝える人の重要さ

手仕事のものづくりに興味がある人は、全国各地で開催されているクラフトフェアなどに行かれたことがある人も多いのではないでしょうか?現在、びっくりするくらい多くの「クラフトフェア」と名がつくイベントがあります。その中でも有名なものとして10月に千葉県市川市で開催される「工房からの風」があります。


森林文化アカデミーのものづくり講座も昨年10月に学生と見学に行きました。その中で誰もが驚いたこととして「会場の一体感」「作家同士の連帯感」といったほかのクラフトフェアでは見られない”空気”でした。これはぜひその仕掛け人に話を聞いてみたい、ということで、「ものづくりと仕組みづくりゼミ」という授業で「工房からの風」のディレクターでありヒナタノオト 代表取締役代表の稲垣 早苗さんにアカデミーにお越しいただきました。なぜ「工房からの風」がはじまったのか、をはじめ「つくる」を伝える仕事についてその第一線を走ってきた稲垣さんの考えを講義いただきました。

また今回の講義については、アカデミーの在校生、卒業生のつながりもさらに深めていきたいと思い、アカデミー周辺にいる卒業生にも声をかけ、計6人の卒業生らが集まりました。

時代を通してものづくりの世界を見る



まず最初に稲垣さんが説明してくれたのは、工房からの風に至るまでの、稲垣さんの経歴でした。大学では文芸が専門で俳句などもやられていたのですが、卒業後金沢でお仕事をはじめ、そこで工芸に出会います。それから時間をかけて、個人作家が世に出ていく仕組み、作家同士をつなぐ仕組みづくりをされてこられました。興味深かったのは、どんな時代背景がそのときあったのかを合わせてお話しくださったことです。ものづくりは人の暮らしを形作っていくものです。バブル経済からその崩壊、そして工芸やクラフトの混迷の時代、時代を紐解いていくと、見えてくるものが変わります。

「工房からの風」は横の出会いと学びの場



2000年以降は、工芸に興味を持つ人が愛好家だけでなく、若い夫婦などにも広がっていったとのこと。より「暮らし」を大事にしていくという価値観が広がってきたのではないでしょうか。

現在のスタイルとして「工房からの風」が始まったのは2001年。作家が世に出ていく仕組み、作家とギャラリーやショップオーナーなどの伝えるプロとの出会いの場をつくる、そういった稲垣さんの思いを形にしたものです。特に、師弟関係がなくなった現代のものづくり、横のつながりをいかに築けるかが重要だったようです。

そのために、10か月前に出展者が決まると、それから数回出展者同士で集まる機会を設けるなど、イベントをみんなで作り上げ、作家同士で協力できるようにしていくそうです。それが会場で感じる一体感や連帯感につながっているのです。「工房からの風」は、仲間や仕事に出会える場であり、そしてさらなる学びを得られる場となっているのです。

伝える努力は常に必要



「工房からの風」ではチラシや小冊子が非常に充実しており、しかもその内容もとても深いものがあります。それは稲垣さんが「つくる」を「伝える」ということを重要だと考えており、作家さんにも文章を書くことを薦めています。作家さんは文章を書くことで自分の仕事を振り返り、そして整理していくことができます。そういった作り手自らの「言葉」を稲垣さんがまとめ、その世界観を作り上げているのです。

かつては、ギャラリーやショップなどには伝えるプロがいました。これは!という作家を見つけ、その作家について、作品について、多くの人に知ってもらう橋渡し役として機能していました。しかし、クラフトフェアにこれほど人気が集まってくると、お客さんは直接作家から買う機会が増えます。その時に自分の仕事がなんなのか、しっかり伝えられなければいけないのです。また、近年の雑貨店ブームもあり、「センス」や「見せ方」が上手なだけのお店が増えているそうです。そういうところでは作家に対しての対応が悪く、「売れるもの」だけを要求してくるようになります。そういうところに頼るようになると、本当にやりたいものづくりができなくなってくる作家さんも出てくるそうです。

「横のつながりを作り、そして商売がないところでも伝える努力をすることが重要。」稲垣さんの言葉にはとても重いものを感じます。

種蒔きと剪定



「工房からの風」の舞台となるニッケ鎮守の杜の庭造りを長年されてきた稲垣さん。講義では卒業生らの現在の仕事やこれからについてもアドバイスをいただきました。そのなかで将来を見据えて「種蒔き」をし「ゆっくり育てること」、必要なものは残り、不必要なものは消えること、自分の仕事の「軸」をどう育てていくか、稲垣さん流のアドバイスがありました。

「真ん中のしごと」。本当にやりたいものづくりは何なのか、常に考えながら日々の仕事に取り組みたいと、卒業生らも非常に感銘をうけたようです。


講義終了後はみんなでお昼ご飯を食べながら、さらに稲垣さんのお話に耳を傾けました。

ものを作るだけでは不十分で、それを伝えるところの仕事をいかにしていくか、稲垣さんの講義から多くのものを学んだように思います。

(文責:ものづくり教員 和田賢治)

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